提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
農業分野における農業用ドローン(マルチロータ)の利用は、農薬散布を中心に拡大してきており、特に水稲においては実装化が急速に進みつつある。利用に際しては、「空中散布等における無人航空機利用技術指導指針」(令和元年7月30日に廃止※)に空中散布の方法(飛行高度、飛行速度等)が定められていたものの、実際の営農現場において、その散布性能や防除効果等を検証した客観的な評価実績は少ないのが実情である。
そこで、市販機種を対象に、営農現場での散布性能、防除効果等の検証や調査研究を実施したので、その結果について紹介する。
※ 7月30日以降は新たに「無人マルチローターによる農薬の空中散布に係わる安全ガイドライン」が施行
1.試験条件
(1)供試機 農業用ドローンMG-1K(K社)
図1 供試した農業用ドローン
(2)飛行方法 マニュアル
(3)散布資材 清水(0.8L/10a)
(4)飛行速度 15km/h
(5)飛行高度 2m
(6)風速 弱風区 :向かい風0.8m/h
追い風区 :追い風7.2m/h
向かい風区:向かい風1.82m/s
2.散布精度
農業用ドローンによる液剤の散布精度は、ダウンウォッシュ(機体下に吹き下ろされる風)が小さく、風の影響を受けやすかった。追い風での散布は機体直下に薬剤が集中しやすく、向かい風での散布は飛行方向後方に薬剤が流れ、株元まで到達しにくい傾向にある。弱風条件(風速0~1m/秒程度)では、株元に設置した感水紙のすべてにおいて薬剤の付着が確認され、散布精度は安定した(図2、3)。
3.風の影響
農業用ドローンは、風速・風向の変化の影響をより詳細に受けやすいため、風速が増すと、感水紙の被覆率の差が大きくなり、散布ムラが発生する傾向を示している。これは、体感無風状態の場合は風速がほぼ一定であるのに対し、風速が増すにつれ瞬間風速の乱高下が激しくなり、気流が安定しないためと考えられる(図3、4、5)。
以上のことから、農業用ドローンによる液剤農薬散布において、より防除効果を高めるには、可能な限り無風条件下で実施することが望ましい。
図2 風向の違いによるダウンウォッシュのイメージ
図3 農業用ドローンの薬剤(液剤)散布時の風の影響
図4 供試した超音波風速計
図5 100mほ場を往復散布するときの風速の推移の一例(飛行速度15km/h時)
1.試験条件
(1)供試機
農業用ドローンMG-1K(K社)
無人ヘリFAZER R(Y社)
図6 供試した農業用ドローンと無人ヘリ
2.農業用ドローンと無人ヘリの散布精度
農業用ドローンは、無人ヘリに比べてダウンウォッシュ(下方へ吹き下ろされる風)が小さく、風の影響を受けやすかった(図7、8)。追い風の場合、散布は機体直下に集中する傾向にある。農業用ドローンはダウンウォッシュが小さく、この傾向が顕著だが、無人ヘリではほぼ均等に散布される。株元(地上10cm)への薬剤付着程度は、無人ヘリに比べ、やや劣る傾向がみられた(図8、9)。
3.農業用ドローンと無人ヘリの作業能率
散布幅は、農業用ドローンは4m、無人ヘリは7.5mであることから、作業時間は農業用ドローンが7.6min/haで、無人ヘリの5.3min/haに比べ多く要した。一方、無人ヘリはエンジン始動等の調整時間が必要であるが、農業用ドローンはバッテリを接続することで即飛行が可能である。1ha当たりの作業時間は、農業用ドローンが15.5min/ha(延べ31.0min/ha)で、無人ヘリの12.6min/ha(延べ25.2min/ha)に比べやや多いものの、動力噴霧機の122.2min/ha(延べ244.4min/ha)に比べると13%で作業が可能である(図10)。
図7 散布の違い 農業用ドローン(左)と無人ヘリ(右)
※画像クリックで動画再生します
図8 農業用ドローンの散布精度
図9 無人ヘリの散布精度
図10 農業用ドローンと無人ヘリの作業時間
平成29年度、30年度にウンカ類、ツマグロヨコバイ、カメムシ類、いもち病、紋枯病を対照に防除効果を検討した。
ツマグロヨコバイでは防除効果を確認できたが、その他の病害虫は発生が少なく、効果は判然としなかった。
省力的な農業機械・設備を導入する場合、省力化によって余剰となる時間を、規模拡大や新規品目の導入、さらには新たなビジネスの導入に振り向けることで、費用対効果では不利でも経営全体の所得としては有利になる場合がある。このような考え方による技術の評価を「経営評価」という。
ここでは、平成30年度の実証データと鹿児島県農業経営管理指導指標(平成28年3月版)を用いて、ドローンを活用した防除技術の経営評価の一例を紹介する(表1)。
試算には鹿児島県の地域振興局・支庁の普及課にも配布されている「営農類型シミュレーションシステム2016」を利用した。
前提条件としては、土地面積が12ha、労働力は家族2人と臨時雇用最大3人、田植4条植1台、コンバイン4条刈1台で、水稲作付と水稲の収穫乾燥の受託を実施している農家を想定している。
【試算1】
出穂期前後の防除は、動噴を使用する農家を想定した場合、最も所得が大きくなるのは普通期水稲作付面積11.5haと水稲収穫乾燥受託10.1haの時で、所得は4,022千円となる。
【試算2】
この農家がドローンを導入し、自ら栽培する水稲のみの防除に利用する場合、水稲作付及び収穫乾燥受託の面積は変わらず、所得は3,536千円に低下する。
【試算3】
自ら栽培する水稲に加えて、ドローンの防除可能面積上限まで受託(防除作業料2,740円/10a※ 農薬代は含まない)を行う場合、水稲作付及び収穫乾燥受託の面積は変わらない中で、66.1haまで防除受託が可能となり、所得は4,772千円に増加する。
※ 平成30年農作業料金・農業労賃に関する調査結果[県農業会議]より
【試算4】
ドローンを導入して所得が慣行とほぼ均衡するのは、防除受託面積が25.0haの時で、所得は4,003千円となる。
防除を行う8月の防除労働時間は、動噴での47時間(1人24時間)に対して、ドローンでは25.0haの受託を実施しても33時間となることから、この受託面積では労働面でもドローン防除が有利であるという結果となった。
表1 農業用ドローンを活用した防除の経営評価
(平成29~30年度 鹿児島県農業開発総合センター大隅支場農機研究室)