提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


果物と糖尿病予防(5)

2018年02月12日

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門
カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長
杉浦 実


三ヶ日町研究からわかったこと:糖尿病発症リスクとの関係
 前回のコラムにおいて、ミカンで有名な三ヶ日町の住民を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)から、ミカンをよく食べてβ-クリプトキサンチンの血中濃度が高い人達では、インスリン抵抗性のリスクが有意に低いことがわかりました。


sugiura_2018_8z2.jpg このような研究を横断研究といいますが、結果(病気の有無)と原因(ミカンや血中β-クリプトキサンチン)を同時に調査解析していますので、結果が先なのか原因が先なのかは不明であり、ただ相関が確認されたに過ぎません(横断研究の限界)。そのため、β-クリプトキサンチンが病気を予防したのかを明らかにするためには、次に縦断研究(コホート研究)により検討する必要があります。つまり健康な人だけを選び出し、その後何年間も追跡調査を行い、ミカンをよく食べていた人とそうでない人とでは、糖尿病の発症率にどのような差が出るかを比較検証する必要があります。

 三ヶ日町研究では、開始当初から10年間の追跡調査を目標にして、ベースライン調査以降も協力者の健康状態の変化を毎年調べるという作業に、くり返し取り組んできました。そして10年間の追跡調査から、β-クリプトキサンチンと糖尿病発症との新たな関連性が認められました。


 調査開始時の血中β-クリプトキサンチン濃度に関する分析データがある被験者1,066名のうち、10年後調査完了までに1回以上の追跡調査が実施できた被験者910名について、調査開始時にすでに糖尿病であった被験者(空腹時の血糖値が126mg/dL以上、または糖尿病治療中の者)を除いた864名を対象に縦断的な解析を行いました。その結果、10年間の追跡調査の間に新たに55名が糖尿病を発症したことが確認できました。

 ベースライン時の血中β-クリプトキサンチン濃度で被験者を3群(低・中・高)に分け、糖尿病に関連するさまざまな要因を統計学的に補正した上で各群での糖尿病の発症率を計算したところ、血中β-クリプトキサンチン値が低グループでの糖尿病発症リスクを1としたとき、中グループでは0.53、高グループでは0.43となりました(図1)。つまり、ミカンをよく食べる、血中のβ-クリプトキサンチン値が高かった人は、その後、10年間での糖尿病の発症リスクが57%低下したことになります。また、この血中β-クリプトキサンチンが高グループの人たちのミカン摂取量が毎日3、4個ということも、栄養調査のデータから明らかになっています。


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 果物は、その甘さゆえに高糖・高カロリーと誤解されることが多く、糖尿病には良くないととらえられがちな食品ですが、実際には大半が水分であり、むしろ低カロリーな食品といえます。β-クリプトキサンチンの豊富なミカンを毎日3、4個食べることが、糖尿病の予防につながる可能性がわかった、とても重要な知見であるといえるでしょう。


 以前、本コラム「果物と糖尿病予防(1)」でもご紹介しましたが、果物は低カロリー食品であるだけでなく、ビタミンやミネラル、食物繊維を多く含んでいます。また、最近さまざまな機能性が明らかになったポリフェノールも豊富に含まれています。糖尿病予防のために果物を控えるべきだというのはまったく誤った考えであり、むしろ予防のためには積極的に食べた方が良いといえるでしょう。もちろん、食べ過ぎは良くありません。一日の摂取カロリーのバランスを考えて、毎日の生活に果物を取り入れることが重要です。

すぎうら みのる

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長