提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


果物と糖尿病予防(4)

2018年01月19日

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門
カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長
杉浦 実


三ヶ日町研究からわかったこと:インスリン抵抗性との関係
 本シリーズの「β-クリプトキサンチンを機能性成分とするウンシュウミカンの機能性表示(上)」でもご紹介しましたが、農研機構果樹茶業研究部門では、ウンシュウミカン(以下、ミカン)の摂取がどのような生活習慣病の予防に役立つかを明らかにするため、国内有数のミカン産地である静岡県浜松市北区三ヶ日町の住民を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)を平成15年度から行っています。

 この調査では、ミカンに特徴的に多く含まれているカンキツ成分であるβ-クリプトキサンチンに着目し、血中β-クリプトキサンチン値と糖尿病との関連についても解析を行っていますが、この調査からも大変興味深い結果が得られましたのでご紹介します。


 インスリン抵抗性とは簡単に言うと、「インスリンの効き具合」を意味します。すなわち、同じだけ血糖を下げるのに必要なインスリン量が多い場合があり、この時、「インスリン抵抗性が高い(インスリン感受性が悪い)」と表現します。このインスリン抵抗性はインスリン分泌低下とともに、糖尿病の発症や状態に大きく関わっており、とくにインスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病)患者で重要な病態です。現在糖尿病でなくても、インスリン抵抗性が高い人はそうでない人に比べて糖尿病にかかる率が高くなることが近年の疫学研究から明らかになっています。また、インスリンの過剰な分泌は血圧の上昇や脂質代謝の異常も引き起こし、動脈硬化の原因にもなります。三ヶ日町における調査で私たちは、空腹時血糖値とインスリン値から次式でインスリン抵抗性を算出しました。


「HOMA指数=空腹時血糖値(mg/dL)×インスリン値(mU/L)÷ 405」


 血中のインスリン値そのものでもインスリン抵抗性を判断するひとつの目安となりますが、インスリン抵抗性から糖尿病に進行した人では、むしろインスリン値が低くなります。そのため私たちは、調査した時点で糖尿病と考えられる人(空腹時血糖値が126mg/dL以上)あるいは糖尿病歴を有する人は除外して解析しました。その結果、ミカンに特徴的に多く含まれているβ-クリプトキサンチンの血中濃度が高い人達の中で、インスリン抵抗性が高いと考えられる高HOMA(3以上)のリスクは、血清中β-クリプトキサンチンレベルが低い人達に比べて約2分の1程度であることがわかりました(図1)。β-クリプトキサンチンを豊富に含むミカンは、糖尿病の発症予防に有効である可能性が示唆されました。


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インスリン抵抗性との関係:実験研究から
 ミカン産地の住民を対象にした栄養疫学研究から、ミカンを良く食べてβ-クリプトキサンチンの血中濃度が高い人達では、インスリン抵抗性のリスクが有意に低いことがわかりました。

 では実際に、実験動物にミカンジュースを飲ませた場合、インスリン抵抗性は改善されるでしょうか?
 この実験では、遺伝的に2型糖尿病を発症するGK(Goto-Kakizaki)ラットを用いました。5週齢のGKラットにミカンエキスを添加した飼料を自由摂取させ、実験開始5及び10週後にブドウ糖腹腔内負荷試験を行いました。ブドウ糖負荷試験は糖尿病外来で良く行われる検査で、一定量のブドウ糖を負荷した後、血糖値の変化を調べることでインスリン抵抗性を評価します。ブドウ糖負荷後に血糖値が上昇しますが、その後の血糖値の下がり具合をみて糖尿病かどうかを判断することができます。


 図2に、飼育期間中の非絶食状態での血糖値変化を示しました。非絶食状態では、糖尿病対照群においては、血糖値のゆるやかな上昇が観察されましたが、ミカンエキス投与群においては血糖値の上昇が抑えられる傾向がみられ、投与開始10週後においては有意な血糖値の上昇抑制効果が認められました。


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 また、投与開始5及び10週後のブドウ糖腹腔内負荷試験では、5週後の試験では有意な血糖値の上昇抑制作用は認められませんでしたが、10週後の試験においては、ブドウ糖負荷30分後の血糖値の上昇が、糖尿病対照群に比べて有意に抑制されることがわかりました(図3)


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 ミカンが有する糖尿病を予防改善する効果は、橙色の色素であるβ-クリプトキサンチンによるものではないかと考え、その後、ミカンから抽出精製した高純度のβ-クリプトキサンチンを用いて同様の実験を行いましたが、β-クリプトキサンチンは用量依存的に糖尿病モデル動物のインスリン抵抗性を改善する効果が認められ、現在ではその作用メカニズムが遺伝子レベルで明らかになりつつあります。

すぎうら みのる

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長