提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


果物と糖尿病予防(2)

2017年08月30日

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門
カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長
杉浦 実


つづき
糖尿病とは
 内分泌系疾患である糖尿病は、糖代謝の異常によって起こるとされていますが、血液中のブドウ糖濃度が病的に高まることによって、さまざまな特徴的な合併症(網膜症、腎障害、神経障害、動脈硬化など)をきたす病気です。日本国内においても近年急激に増加しており、厚生労働省の平成27年「国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、男性19.5%、女性9.2%でした。糖尿病には1型と2型がありますが、日本人の糖尿病の9割以上は2型糖尿病であり、その発症には生活習慣が深く関与していると考えられています。


 食事によって体内に摂取された糖質は小腸で分解されてブドウ糖となり、その後吸収されます。ブドウ糖は身体活動のためのエネルギー源として利用されますが、すぐに利用されるもの以外は血液中に溶け込んで(血糖となって)、肝臓や筋肉や脂肪組織に運ばれ、そこで貯蔵されます。そして、ブドウ糖が不足したときに再び取り出されて、エネルギー源として利用されます。このように糖質がエネルギーになるプロセスを糖代謝といいますが、その鍵を握っているのが膵臓から分泌されるインスリンです。インスリンは細胞側にあるインスリン受容体と結びつくことで、ブドウ糖を肝臓や筋肉や脂肪組織に取り込ませるように働きます。糖尿病とは、この糖代謝のプロセスやシステムが正常に作動しないために起こってくる病気で、糖尿病における病態の悪化の抑制には血糖のコントロールが不可欠であり、血糖値のコントロールが悪いと、やがて糖尿病性合併症の進展につながります。


果物と糖尿病:海外での調査結果
sugiura_201704-5_1.jpg 近年、果物をたくさん食べると糖尿病の予防に有効かもしれないという研究報告が、海外から相次いで報告されています。

 1つはアメリカ人9,665人を約20年間にわたり、果物・野菜の摂取量と糖尿病発症との関係を調査した結果です。この研究は糖尿病を患っていない人達の果物・野菜の摂取量を調べ、その後約20年間追跡したものです。糖尿病を発症した割合と果物・野菜の摂取量との関連を解析すると、果物・野菜を多く摂っていた女性グループでの糖尿病発症のリスクが、あまり食べなかったグループと比べて39%も低いという結果が得られました。

 一方、フィンランドからは、40から69才の男女4,304名を23年間追跡調査した結果も報告されています。この調査では、最終的に383名が2型糖尿病を発症しました。食事調査から果物の摂取量と糖尿病発症リスクとの関係を解析したところ、最も果物を食べるグループでの2型糖尿病発症リスクは、あまり食べなかったグループと比べて31%も低く、緑色野菜の高摂取群とほぼ同じレベルまで2型糖尿病の発症率が低かったと報告しています。


 また最近、アメリカで行われた3つの大規模なコホート研究をまとめて総合的に解析(メタアナリシス)した結果も報告されました。3,464,641人を最長25年間追跡調査し、そのうち12,198人が2型糖尿病を発症しました。果物摂取量との関連を解析した結果から、週に4サービング(皿)未満しか果物を食べないグループに対して、毎日食べるグループでの2型糖尿病発症リスクは0.88まで有意に低下したと報告されています。この論文では、どのようなタイプの果物が2型糖尿病リスクの低減にとくに有効かについても解析されています。その結果、果物の中でもとくにブルーベリーのリスク低減が大きく、次いでブドウやプラム、リンゴ・ナシ、バナナ、カンキツ類がいずれも有意なリスク低減と関連しており、一方でイチゴやメロンでは関連は認められなかったと報告されています。


 2000年以降、果物と糖尿病リスクとの関連についての大規模なコホート研究が数多く報告されるようになってきましたが、効果があるとするものが多く報告されている一方、関連がなかったとする論文もいくつか報告されています。興味深いのは、逆に2型糖尿病リスクが有意に上昇したとする報告がほとんどないということです。


果物は生で、果汁飲料はNG?
 このように2型糖尿病の予防に有効ではないかと考えられる果物ですが、果汁にしてしまうとその効果は期待できないどころか、逆に良くないかも知れません。


sugiura_201704-5_2.jpg 清涼飲料水や人工甘味料で甘味付けされた清涼飲料水、また、果汁を添加した飲料でも、毎日飲み過ぎると2型糖尿病のリスクが有意に上昇することがこれまでに数多くの研究から報告され、WHOもこれら飲料の過剰摂取は、肥満や糖尿病の危険因子であると警告しています。
 では100%果汁ではどうでしょうか? 生で食する分にはリスク低減に期待できる果物なのに、その加工品である100%果汁ではリスク低減どころか、逆にリスクを上げたとする研究がいくつもあります。最近、13件のコホート研究をまとめたメタ解析の結果が報告されました。その論文では、100%果汁飲料でも2型糖尿病のリスクが上昇したと報告されています。生果と100%果汁で、どうしてこのような異なる結果になるのか。その理由ですが、果実を果汁に加工する際、いくつかの工程を経て果汁が製造されますが、これらの製造工程で多くの食物繊維やカロテノイド、フラボノイド類が取り除かれること、また糖質を液体で短時間に負荷することが、インスリン抵抗性を高めるのではないかと考えられています。


 さまざまな生活習慣病の予防に役立つことが近年数多く報告されるようになってきた果物ですが、健康のためには、あくまで生で食した方が良さそうです。果物の皮をむいて食べるのが面倒な方には100%果汁飲料が手軽な食品かも知れませんが、あまり飲み過ぎないようにした方が良さそうです。(つづく)

すぎうら みのる

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長