提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


果物と糖尿病予防(1)

2017年08月04日

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門
カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長
杉浦 実


はじめに
sugiura_201704-4_1.jpg 国内にはリンゴやミカン、ブドウ、モモ、ナシ、クリなど実に多種多様な果樹が一年を通して生産されています。甘くておいしい日本の果物は、世界で類を見ないほど高品質であることがよく知られています。野菜や魚嫌いという話は良く聞きますが、果物が嫌いということは滅多に聞きません。日本で果物は、高級果物店というのがあるくらい、昔からお見舞いや、お中元・お歳暮などの贈答用品として扱われてきたように高級品でした。

 一方、母親が子供に「健康のために野菜を残さず食べなさい」とよく言いますが、「健康のために果物を食べなさい」とはほとんど言われません。甘味嗜好に迎合した現在の国内果樹産業が流通させている果物では、健康に良いという認識には至らず、嗜好品としての域を脱し得ません。むしろ、糖分が多いから食べ過ぎない方がいいとも思われています。
 本稿ではまず、果物に含まれる栄養成分とカロリーについて説明し、果物と糖尿病との関係について最近明らかになった海外の研究成果を紹介するとともに、私達の三ヶ日町での調査結果についてご紹介します。


果物は高カロリーか?
 果物は糖分が多くて高カロリーなため、肥満や糖尿病・高脂血症によくないので摂り過ぎない方がいいという誤解が一般には多く、このような誤解は医療従事者にも見受けられます。果糖と高脂血症、糖尿病に関する研究は多いですが、通常の食生活において摂取するレベルでは、果糖が問題になることはないということは、すでに明らかにされています。表1に代表的な果物と菓子類のカロリーについてまとめました。果物は別名「水菓子」といわれるように大半は水分であり、他の食品群に比べて、カロリーは低い食品といえます。


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果糖について
 果物の食味の中で最も重要な指標とされている甘味は、ショ糖、ブドウ糖、果糖及び糖アルコール(ソルビトール)によるものですが、ブドウ糖の甘味度は、ショ糖を1とした場合0.60~0.70であるのに対して、果糖は1.20~1.50あり、糖の中では最も甘味が強いとされています。

 果糖と血清脂質、糖尿病に関する研究は多く報告されていますが、通常の食生活において、食品から摂取するレベルでは問題のないことが明らかにされています。さらに、果糖は表2に示すように、グリセミックインデックスが低く、血糖値を上げにくい糖であるため、果物は血糖値を上げにくい食品とされています。


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果物に含まれる栄養素とカロリー
 果物は水分が多く、脂質やタンパク質は極めて少ない食品といえます。糖質以外では食物繊維、ビタミン、ミネラル、カロテノイドが豊富であり、摂取カロリーを抑えてもこれらの栄養成分が豊富に摂取できる果物は、健康食品といえます。


a. 食物繊維
 日本食品標準成分表では、食物繊維とは「体内で消化されない食品中の難消化性成分の総体」として、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の合計した値を収載しています。難消化性成分という言葉から、食物繊維は非栄養成分ということになりますが、近年では重要な成分として位置づけられています。食物繊維の生体調節機能に関する研究は多くあり、血糖値の上昇抑制作用やコレステロールの正常化作用が明らかになっています。これは摂取した後、胃で粘度の高い状態になるため、胃内の滞留時間や小腸内での拡散速度が遅くなるためです。


b. ビタミン
 果物にはビタミン類が豊富に含まれています。代表的な果物のビタミン含有量を表3にまとめました。通常の日常生活に必要なカロリー量は2,300から2,700Kcalとされていますが、たとえば中サイズのミカン2~3個(80Kcal)を食べても、一日の必要カロリーの3~3.5%にしか相当しません。しかしながら、一日に必要なビタミン摂取量を考えた場合、ビタミンAだと56.1%摂取でき、同様にビタミンEでは7.9%、ビタミンB1では16.8%、ビタミンB2では4.5%、ナイアシンで3.4%、ビタミンCだと58.7%も摂取できることになります。


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 カロテノイドは自然界に広く存在する色素で、これまでに約800種類が見出されています。中でもβ-カロテンはカロテノイド色素の代表であり、野菜・果物に豊富に含まれています。これらカロテノイドの重要な生理機能としてビタミンAの前駆物質(プロビタミンA)としての働きがあり、β-カロテンやβ-クリプトキサンチンは、生体内でビタミンAであるレチノールに転換されます。これに対して、リコペンやゼアキサンチンにはビタミンAとしての活性はありません。レチノールとしての一日の必要摂取量は0.6mg(上限1.5mg)とされており、レチノールを過剰摂取した場合には急性的には頭痛、悪心、嘔吐等の症状が現れ、慢性的に過剰摂取すると皮膚乾燥、食欲不振、腎機能異常などの副作用が現れますが、果物や野菜からカロテノイドとして摂取した場合、必要量しかレチノールへ転換されないため、過剰症の心配はほとんどありません。また近年では、プロビタミンAとしての機能だけでなく、カロテノイドそのものの生理機能が注目を集めています。


 その他、果物から摂取できるビタミンとして葉酸があり、細胞の正常な分裂増殖には必須の栄養素とされています。通常の食生活で欠乏することはありませんが、妊娠中の女性においては欠乏症がみられることがあります。アメリカやイギリスでは妊娠を予定している女性に対して、胎児の神経管障害発生予防のために、一日あたり400μgの葉酸を摂取するよう推奨しています。


c. ミネラル
 果物に含まれるミネラルには、カルシウム、マグネシウム、鉄、リン、亜鉛、銅、カリウム、ナトリウム等があります。国民栄養調査から、カルシウム及び鉄を除く栄養素については、いずれも所要量を上回っています。一方、食塩摂取量については所要量を著しく上回っています。食塩の摂取量は高血圧予防の観点から、15歳以上では一日あたり10g未満が望ましいとされており、また、これに対してカリウムは一日3.5g以上が望ましいとされています。果物はナトリウムをほとんど含まず、カリウムの多い食品として位置づけられており、ナトリウムの体外への排出を促すことから、高血圧・心臓病予防のために有効と考えられています。

すぎうら みのる

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長