提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【134】

2018年05月28日

増えるのか中国向けコメ輸出

ジャーナリスト 村田 泰夫


 中国向けに輸出される日本産米の輸出施設の拡大を中国政府が認めた。5月上旬、東京で開かれた日中韓首脳会議に出席するため来日した、李克強・中国首相と、わが国の安倍首相との間で合意したもの。巨大な市場である中国大陸へのコメ輸出が増える、との期待がふくらむが、「そんなに甘いものではない」という冷めた見方も根強い。


murata_colum134_1.jpg 日本産米の中国向け輸出は、関税割当枠を持つ業者であれば関税率は1%、それに「増値税」13%を納めなければならないが、特段輸入制限されているわけではない。しかしながら、検疫条件が厳しい。中国が指定した精米工場での精米と、燻蒸倉庫での殺虫処理を義務付けられている。しかも現状では、その精米工場は全農パールライス・神奈川精米工場の1カ所だけ、燻蒸倉庫は神奈川県内の2カ所だけに限られていた。殺虫処理する燻蒸能力は年間7000tしかない。中国に輸出したくても、これが制約になっていた。

 それが今回の合意で、精米工場は北海道石狩市にあるホクレンのパールライス工場と、兵庫県西宮市にある米卸会社、神明のきっちん阪神工場の2カ所が加わり、合わせて3カ所になる。燻蒸倉庫は北海道小樽市2カ所、山形県酒田市1カ所、神戸市1カ所、熊本県八代市1カ所の5カ所が加わり、合わせて7カ所になる。


 今やコメどころとなった北海道のホクレンは、「国内でも人気の高い『ゆめぴりか』を中国市場に売り込みたい」と意欲を見せる。また、神明は西宮市にあるグループ会社の阪神工場が指定されたことから、「7月から北陸産コシヒカリの輸出を始めたい」という。燻蒸倉庫の殺虫処理能力は、これまでの2カ所の7000tから、7カ所になると合計2万tを超えることから、中国向け輸出がしやすくなるかもしれない。しかしながら、実態は厳しい。2017年の中国向けのコメの輸出量は298tで、300tにも達していない。現在の燻蒸処理能力ですら持て余している。

 中国でのコメの消費量は年間1億5000万tに達する。日本国内での消費量は年々減り続け、現在では800万t足らずしかない。国内市場の減少を海外市場、特に大市場である中国向け輸出で補いたいという関係者の気持ちは理解できる。


murata_colum134_2.jpg 貿易は、相手国との関係で言えば、双方とも利益となることである。米国のトランプ大統領が、米国の巨額の貿易赤字を問題視し、相手国である中国や日本、欧州諸国に対して「不公正」だとして批判を強めている。その認識は間違っている。双方が得になると思って取引するのが貿易という商行為である。

 私たちが、物を買うときのことを考えればわかる。たとえば、乗用車。普段の子どもの送り迎え、買い物、それに週末のドライブ。マイカーがあったら便利だし楽しいはずだと思って、乗用車を買いたいと販売店に行く。自動車の販売店は、メーカーからの仕入れ価格と経費に利益を上乗せして、販売価格を提示する。それが高いと思えば、お客は買うのを断念するし、それでもいいと判断すれば購入を決断する。買った人の家庭の家計は、マイカーローンを組むなどして負担が増えるが、乗用車のある生活の利便性の増加とはかりにかけて、プラスとなるから購入したのである。損をしたわけではない。商取引は、ウインウインの関係であるから成立するのである。貿易でも同じである。

 しかしながら、国家の財政が破綻しかねないとか、海外製品の流入で自国の産業が疲弊してしまうとか、あるいは国際政治上の思惑から相手国経済への打撃を狙って、貿易を制限する必要に迫られることがある。


murata_colum134_3.jpg 「米国第一」の旗を掲げるトランプ大統領は、自国の製造業を復活するため、海外からの輸入に高い関税をかける検討を始めた。当面の貿易赤字の縮小には役立つかもしれないが、米国民は高くて品質の悪い米国製品を買わされたり、貿易相手国から報復を受けたりして、米国の利益にはならない。

 トランプ大統領の批判の矢面に立った中国は、報復として米国産大豆に高い関税をかけるほか、さまざまな対抗措置を取り始めた。その中に、気になるニュースがあった。中国政府が、米国産のリンゴや豚肉の検疫を強化し始め、物流に影響が出始めたというのだ。
 中国の税関が調べたところ、「米国産のリンゴと木材から、中国にはない害虫や病原菌が見つかった」というのが理由である。米国が中国からの輸入にいちゃもんをつけていることへの報復との見方に対して、中国政府は否定しているが、関係者の多くは中国政府の反撃だとみている。真相はわからない。だが、往々にして、関税以外の検疫という手段を通じて貿易を恣意的に制限しようとする動きは、洋の東西を通じてこれまでよく行われてきたことだ。


 さて、日本産米の中国向け輸出の検疫の制約が緩められることになったことについて、それ自体は歓迎すべきことだが、それで中国向け輸出が安定的に増えるとみるのは楽観的に過ぎよう。今回の検疫緩和は、政治的思惑の産物である。政治状況次第では今後、検疫が強化されることだってありうる。検疫という非関税障壁の存在を、常に心にとめておかなければならない。(2018年5月24日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。