提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


「野菜ソムリエ」の元気を作るおいしい食卓【37】

2017年01月18日

冬の江戸東京野菜めぐり その2    

野菜ソムリエ・アスリートフードマイスター 田代由紀子   


 先月の東京の伝統野菜「江戸東京野菜」ゆかりの話に続き、今月も冬の「江戸東京野菜」にちなんだ話を紹介したいと思います。


■たった一人の生産者が作る「高倉ダイコン」
tashiro_37_1.jpg 高倉ダイコンは八王子市東部、浅川の北に位置する高倉町近辺で、大正時代から種を取り続けている固定種のダイコンです。すらりとした姿で漬物に向くことから、ほとんどがたくあんなどの加工用として出荷されます。昭和の前期には、養蚕・絹織物が盛んだった八王子の織物工場の職工さんの昼食のおかずとして、多くの需要があったとのことです。
 

 加工用のダイコンは収穫後1本1本紐で束ねて、「干し」という作業を行います。その風景は壮観で、八王子八十八景の一つとして登録されているほどです。干すことでほどよく水分が抜け、自然の甘味が凝縮されたダイコンは、たくあん漬けはもちろん、そのままスライスしてかじっても一般的なダイコンのようなエグみがなく、強い甘味を感じることができます。


 簾(すだれ)のように干されたダイコンのハウスを見学すると、ダイコンの下に何枚もの毛布が置いてありました。理由をたずねると、毎日、日が暮れる前にダイコンを下に降ろし毛布をかけて寝かせ、翌朝になるとまた吊るし、ダイコンが「く」の字に曲がるくらいまでくり返し行うことで、漬物樽に収まりよく上手く漬けることができるのだそうです。


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 このように栽培から出荷までとても手間がかかり、また食生活の変化から漬物の需要が減ってしまったため、今では生産者は、今回圃場と干し加工場を見せてくれた立川さんただ一人となってしまったとのこと、とても残念です。
 しかし、地元の伝統野菜を守ろうと多摩・八王子江戸東京野菜研究会の方々が市内の小学校へ出向いて、種まき、栽培、収穫、種取りという野菜の授業を行っており、子どもたちが毎年、栽培を続けていると聞いています。野菜を育てることだけでなく、その土地の歴史や食文化が受け継がれることを願っています。


■畑のない品川区で育つ「品川カブ」
tashiro_37_4.jpg 現在はすっかり畑のなくなってしまった東京の大都会「品川」にも、かつては畑があり、その名前の付いた「品川カブ」という野菜がありました。品川は東海道の第一宿場町「品川宿」でしたから、この地で多くの旅人が味わったことでしょう。


そんな品川カブが東京の西部、小平市の農家で栽培されていることを知った、品川区内の1軒の青果店店主である大塚さんが聞きつけ、品川カブの復活を願い普及活動を始めました。種をゆずり受け、品川区の小学校や区民菜園で栽培してもらうよう種を配り、栽培の方法を伝えるなどして、最近では品川カブは地域にすっかり定着しています。


 昨年末には、品川神社で第5回となった品川カブ品評会が開催されました。小学校、保育園、児童センター、家庭菜園など地元の団体が、30チームも自慢の品川カブを出品していました。小学生は生活科の授業で品川カブに向き合い、放課後や休日も進んで水やりや害虫の駆除にがんばっていたようです。「最初は怖かった虫も、割りばしを使って退治できるようになったよ」と入賞したチームの小学生が誇らしげに話しているようすがほほえましかったです。


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 品評会の会場では、和楽器の演奏や品川カブを使った「品川汁」がふるまわれ、とてもにぎわっており、「品川カブ」という地域に根差した伝統野菜で、子どもから大人までが一つになっていると感じました。

たしろ ゆきこ

野菜ソムリエ・アスリートフードマイスター。「楽しく、美味しく、健康な生活を!」をコンセプトに野菜についてのコラム執筆、セミナー開催、レシピ考案などを行っている。ブログ「最近みつけた、美味しいコト。。。」で日々の食事メニューを発信中。