提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


きょうも田畑でムシ話【60】

2018年03月09日

輝く星は休みなしにきらめいて――テントウムシ  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 「白い花が咲いてるよ」
 庭にある、手づくりのハウスもどき。その中に置いたプランターのイチゴの株に、花がつき始めたと家族が言う。
 無加温ながら、冬のさなかに5つばかり実をつけた。何日も費やしてなんとか熟し、ともかくも口に入った。しかも、そこそこの甘さを伴っていたのには驚いたものだ。
 真冬に飛ぶ虫はまれである。それでプロの農家はお金をかけて、ミツバチやマルハナバチの力を借りる。だが、ビンボーなわが家の場合はそうもいかず、完全な放任栽培である。


tanimoto60_1.jpg それはともかく、イチゴの花がまた咲いたのだ。その先にある果実の収穫に向けて、花粉を運ぶ虫をば招待したい。
 「なんとか、虫に授粉してもらいたいね」
 イチゴ園のオーナーでもあるぼくはつぶやき、さてと考えた。
右 :暖かくなってちらほらと咲きだした、わがハウスもどきで栽培中のイチゴ。うまく実るといいのだけれど


 啓蟄(けいちつ)を過ぎたとはいえ、まだまだ寒い。冬と春が綱引きをしたら、冬の方が勝ちそうである。
 それでもためしに、落ち葉や植木鉢を動かしてみた。するとすこし前までネコのように丸くなっていたダンゴムシやジムカデが、もぞもぞもぞっと、あしを伸ばすではないか。巣穴からはい出してきたアリたちも、土の粒で小山をこしらえている。メダカだって、与えればえさをつつくようになってきた。
 だがしかし、顔を拝みたいのはハチやアブやチョウなど、はねのある「訪花昆虫」と呼ばれるものたちだ。
 授粉だけならはねはなくてもいいのだが、効率的に、しかもとびとびに咲く花に花粉をくっつけてもらうためには、ブンブン飛びまわってほしい。玄関わきのオモトなどはナメクジさんのお世話にもなるそうだが、イチゴに気をつかってもらうのは遠慮願いたい。
 ぼくは知っている。甘い香りに誘われてイチゴに近づいたナメクジたちはたいてい、こう思うのだ。
 「せっかくここまで来たのだから、ちいと味見していくかのう」


 そんなこんなを考えたすえに目をつけたのが、テントウムシだ。この冬にも何度か見かけている。
 もしかして、冬に食べたイチゴはあのテントウムシたちが授粉役を買って出た?
 ツルの恩返しのはなしは有名だが、虫も恩返しするのだろうか。
 ぼくの頭の中の細胞たちはしばし、そのテーマについて議論した。
 「虫の知らせ」なんていうことわざもある。でもそれは、あまり良いことには使わないような気もするし......。
 いつものことだが、こうした思考の繰り返しの中から、まっとうな答えを得ることはない。
 問題はテントウムシだ。いやいや、別に問題になっているわけではないけれど、テントウムシが授粉してくれることはあるのだろうか?


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左 :丸くなったテントウムシ。どくろのように見えない?
右 :身近な虫なのに、まだ謎が多いのがテントウムシだ


 とりあえず手元の本をひっくり返し、インターネットの中もさぐってみたが、テントウムシが花粉を媒介するということを明確に記したものは見つけられなかった。
 花粉まみれになったテントウムシの写真はまれにある。それほど多くないのは、その体に関係するのだと思う。普通種であるナミテントウやナナホシテントウの体の表面はつるつるしていて、いつまでも花粉がくっついたままということはなさそうである。
 この2種についていえば、おもに食べるのはアブラムシだ。成虫も幼虫もアブラムシに食らいつき、むしゃむしゃもしゃもしゃと、食餌の音が聞こえてきそうな感じでせっせと食べる。育ち盛りの幼虫時代の方が食べる量は多いが、それはまあ、当然であろう。
 アブラムシがいない場合には、どうなるか。
 テントウムシさんたちはどうやら、花粉もお食べになるようである。
 ということは、わがハウスもどきでもチャンスはある。なにしろ、イチゴの花以外に、花粉をつけるものはまだない。花粉を食べようと近づいてくれれば、授粉だって期待できる。
 テントウムシに花粉を運んでもらう作戦(頭の中ではいつの間にか、作戦にまでなっていた!)を成功させるためには、なるべくたくさん集めることだ。


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左 :ナナホシテントウの幼虫。育ち盛りだけに、食べるアブラムシの数もハンパではない
右 :野外では花に寄り付くテントウムシもよく見る。花粉を食べているかどうかは別にして


 策はある。テントウムシは集団で越冬する習性があるから、その場所をつきとめれば大量ゲットも夢ではない。
 その気になればいつでも成功しそうな作戦であることがわかった。
 ――だったら、慌てることもないな。
 それはそうだ。日ごろから、あの森この林と散策し、目星はつけてある。
 ――鉢の下に集団で丸まっているダンゴムシと同じだわい。ふふふ。
 とまあ、頭の中だけであれこれ考え、結局は何もしないのがこの時期のぼくの主たる行動パターンである。
 なぜなら、イチゴの花粉の量など足もとにも及ばぬスギやヒノキの花粉が大量に飛び散る季節に入り、そのおこぼれを頂戴するのがうれしいせいか、ぼくの目ン玉は早くもヨロコビでうるうるしている。イチゴの花の10や20、なんでもない!

 そうこうするうちに集団で冬を越したテントウムシたちは野外に散らばり、時期を同じくして大量発生したアブラムシめがけて飛翔するだろう。あのはね、あの食欲があれば、農家が嫌うアブラムシ退治でも大きな成果をおさめるはずだ。
 テントウムシを指にとまらせれば、トコトコつつつとせっかちに歩きだし、てっぺんに着いたと知るや、はねをさっと広げて空に飛び立つ。だから「天道虫」という漢字も当てられるのだ。そうやって飛んで、いろんな場所でアブラムシを減らしている。


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左 :テントウムシといえば、ふつうはアブラムシ食を連想するが、すべての種がそうというわけではない
右 :はねがいびつなテントウムシ。人工的に飛べないようにすれば、野菜農家には喜ばれそうだ


 ところが農家の側からすると、浮気なテントウムシでは当てにならない。できればひとところにとどまってほしいと願うはずだ。
 だったらその願いかなえてみせましょう、とばかりに立ち上がったのが高校生や農業大学校の学生たちだ。千葉県を活動の場とする彼らは地元のテントウムシを使って、その場に定着する工夫をした。簡単に言えば、はねが開かない状態にして野菜畑にとどめ、害虫であるアブラムシをやっつけてもらう作戦だ。
 しかもその方法がふるっている。ホットメルト接着剤を背中にくっつけ、一時的にはねの開けないテントウムシをつくりだす。
 「そんなひどいことをして、かわいそうでしょ」
 「そうよ。背中が熱いんじゃないの。いくらテントウムシだって......」
 当然のように非難の声があがったが、それにもちゃんと反論ができる材料をそろえている。
 テントウムシについては、ぼくも少しは勉強した。だからアブラムシだけでなく、うどんこ病菌を食べるキイロテントウや、イセリアカイガラムシの天敵としてはたらくベダリアテントウ、人間なら「へえ」で済むベジタリアンであるために野菜の葉をかじって嫌われるオオニジュウヤホシテントウなどがいることは知っている。


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左 :タマカイガラムシの天敵としてはたらくアカホシテントウだが、このさなぎはどう見ても悪役だ
右 :「テントウムシダマシ」の俗称もたまわる食植性のテントウムシは、葉を食べるために嫌われる


 だが、それがなんであろう。ちょっとぐらい知識があっても、実際に使えるものはきわめて少ない。なにしろ、ちっぽけなハウスもどきのイチゴの授粉問題さえ解決できないではないか。
 若者の研究成果には、完全に脱帽である。
 ――よーし、負けへんで!
 ぼくは一念発起した。うそ偽りなくそう思ったのではあるが、なにしろ鼻がつまり、花の香りが感じとれないばかりか、頭がぼーっとしてきて、いまひとつ何かをする気力がわかない。それでも、やるときにはやるのだというところを見せたいではないか。
 秘策あるのみ。
 日増しに暖かくなる中、ハウスもどきの入り口を開放し、「はねあるもの、花粉に興味があるもの、自由に来たれ!」作戦を展開することにした。
 ――どや、ちっとは見直したか!
 テントウムシにこの気持ちが通じたかどうかは、そのうちイチゴが教えてくれるだろうね。

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。