提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


野菜

促成イチゴの育苗期におけるハダニ類天敵を用いたIPM防除技術の検討(平成29年度 熊本県)

目的

ipmH29_kumamoto_0.jpg 玉名地域の促成イチゴ栽培では、病害虫による収量・品質の低下が問題となっている。特に微小害虫であるハダニ類やアザミウマ類等は薬剤抵抗性が発達してきており、化学薬剤のみに依存した防除は難しくなっている。そのため、栽培ほ場での栽培期だけではなく、育苗期を含めた1年を通して、化学薬剤への依存度を下げた病害虫管理が必要であり、天敵や物理的防除資材を組み合わせた総合的病害虫管理(IPM)防除体系の早期確立が求められている。
 そこで、育苗期からの天敵を利用したハダニ類の効率的な防除体系を検討し、年間を通した病害虫総合防除技術体系の確立を図る。

地域概要

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 玉名地域は、熊本県の北西部に位置する2市4町(荒尾市、玉名市、玉東町、和水町、南関町、長洲町)からなり、平坦な干拓地と中山間地の畑地帯を有する。施設園芸が盛んな地域であり、ミニトマト、トマト、イチゴ、ナス等、西日本でも有数の野菜産地である。イチゴは県内有数の産地であり、平成29年度系統共販の生産者は約220名、作付面積は約55haである。
 当地域は県育成イチゴ品種「ゆうべに」を県内他産地に先駆けて大規模に導入し、初年度の平成28年度は栽培面積のおよそ5割、本年度は7割以上で栽培され、今後も面積拡大が見込まれている。「ゆうべに」は多収性で、既存品種にくらべ大玉で年内収量も多いなど優良な品種特性をもつことから、イチゴ農家の収益性向上とブランド産地の発展に寄与している。
 天敵を利用したハダニ類の防除については、補助事業等を活用しながら、本年度は7割以上の生産者の栽培ほ場(栽培期のみ)で導入されている。

試験区の構成

育苗期試験の概要(表中の天敵放飼量は総苗数あたり)
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左 :試験区育苗状況(育苗ベンチ下に防草シートを敷設)
右 :対照区育苗状況

調査内容及び方法

(1)ハダニ類・天敵の寄生状況調査
(2)試験区における他害虫の発生状況調査
   1)黄色粘着トラップを用いた発生予察調査
   2)カキノヒメヨコバイの寄生密度の推移
   3)薬剤散布前後のカキノヒメヨコバイの寄生密度
(3)薬剤の散布履歴調査

ハダニ類・天敵調査内容
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調査結果

(1)ハダニ類・天敵の発生状況調査(図1~4)
 試験区では、ハダニ類に対する天敵として、6月20日にスパイカルEX(ミヤコカブリダニ)を放飼した。天敵放飼後、親株ではハダニ類の発生が少なく、天敵の定着も確認できた。子苗では切り離し時にハダニ類がわずかに見られたが、その後は低密度で推移した。このため、ハダニ類の寄生密度の上昇に合わせてスパイデックス(チリカブリダニ)の放飼を計画していたが、実施しなかった。
 対照区では、育苗期間中に化学薬剤による防除(気門封鎖剤を含む)を行ったが、親株期から子苗までハダニ類の寄生密度は試験区に比べ高く推移した。しかし、徹底した防除により育苗後期には寄生密度が低下した。
 また、試験区では防草シ-ト敷設により、対照区に比べて、育苗期間を通して土壌からの跳ね返りによる炭そ病の感染やハダニ類等の害虫の増殖源となる雑草の発生がほとんど見られなかった

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(2)試験区における他害虫の発生状況調査
1)黄色粘着トラップを用いた発生予察調査
 試験区では、黄色粘着トラップを6月20日から設置を開始し、約2週間おきに調査した。アザミウマ類(図5)は7月上旬に多発した後、9月上旬までは低く推移したが、9月中旬にやや増加した。また、カキノヒメヨコバイ(図6)について、今年は熊本県下で梅雨期から発生が多く見られ、試験区においても、7月に多く発生した。

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図5 黄色粘着板におけるアザミウマ類の誘殺頭数の推移(試験区育苗ハウス)

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図6 黄色粘着板におけるカキノヒメヨコバイの誘殺頭数の推移(試験区育苗ハウス)

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左 :チャノキイロアザミウマの被害
右 :カキノヒメヨコバイの被害(葉の黄化・縮葉)


2)カキノヒメヨコバイの寄生密度の推移(図7)
 対照区では、ネオニコチノイド系のモスピラン顆粒水溶剤やベストガード水溶剤でカキノヒメヨコバイの寄生密度を低く抑えることができた。一方、試験区ではウララDFやベネビアODの効果は認められるものの、7月上中旬の防除間隔が空き、増加した。

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図7 カキノヒメヨコバイの寄生密度の推移
初回調査は天敵区は6/20、対照区は6/27


3)薬剤散布前後のカキノヒメヨコバイの寄生密度の推移(図8)
 マッチ乳剤・ウララDFやベネビアODの近接散布により、カキノヒメヨコバイの寄生密度は急激に低下した。

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図8 農薬散布前後のカキノヒメヨコバイの寄生密度の推移

表1 延べ使用薬剤数の比較
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考察

(1)天敵利用技術の検討
 試験区では、天敵放飼により育苗期を通してハダニ類を低密度に管理することができ、ハダニ剤の使用が大幅に削減できた(図1~4、表1)。また、ハダニ類の寄生密度上昇に備えて計画していたチリカブリダニを使用することなく、ミヤコカブリダニだけで低密度に抑えられたことから、チリカブリダニの使用法について、害虫密度を見極めることで同時放飼以外の選択肢もあることが示唆された。
(2)防草シートの効果の検討
 今年は、ハダニ類の発生はあまり多くないように思われたが、防草シ-ト敷設によるハダニ類の発生源の除去により、試験区では発生が少なかったことも考えられる。また、土壌の跳ね返りによる炭そ病の発生や雑草の発生も抑制できたことから、防草シートは高い防除効果があると考えられる。効果については来年も検討していく必要がある。
(3)その他害虫防除の検討
 試験区では、カキノヒメヨコバイに対するモスピラン顆粒水溶剤、チャノキイロアザミウマに対するアーデント水和剤等が天敵に対する悪影響が大きく利用できないため、やや使用薬剤数が多くなった。今後、発生初期の防除に努め被害を減らす必要がある。
 育苗期は炭そ病を徹底的に防除するが、試験区では2年続けて炭そ病の発生は少なかったため、よく利用されるアントラコール顆粒水和剤、ゲッター水和剤等、天敵に影響のある薬剤を天敵導入前に利用し、導入後はセイビアーフロアブルやベルクートフロアブル等でも防除できると考えられた。カキノヒメヨコバイに対するウララDFやベネビアODの初期防除は有効と思われる。

 以上により、育苗期のIPM防除体系として、天敵+天敵に影響が少ない薬剤+防草シートで体系防除が可能と考えられ、育苗及び栽培の全期間を通して、ハダニ類防除剤の削減を図ることができると思われた。 年次変動等もあるため、今後、継続して調査する必要があり、その他害虫の対策も継続して検討する必要がある。

(4)今後の課題
 ①育苗期におけるハダニ類天敵導入時期等の検討
 ②他害虫の効率的防除技術の確立
 ③防草シートを含めた防除コストの検討

(熊本県県北広域本部 玉名地域振興局 農業普及・振興課、熊本県農業革新支援センター)