提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


野菜

三重県の青ねぎ産地における湿害改善(三重県・平成28年度)

背景と取組みのねらい

●背景
 三重県伊勢市豊浜地区は古くからの青ねぎ産地である。一時は高齢化により産地面積が減少していたが、近年は新規就農者の増加により産地拡大が進んでいる。一方で、近年の天候不順により、湿害の影響による根傷み等から生じる葉色低下・葉先枯れ等の品質低下が産地全体で発生しており、農業経営に及ぼす影響は大きいものとなっている。
 そこで、当地区ではこれまでほとんど実施されてこなかった湿害対策技術(暗渠施工や耕盤破砕)の実証を行い、湿害発生の障害を回避することで年1.5作(春、冬)体系から年2.5作(春、夏、冬)体系の作型を提案し、所得向上に繋げることとする。

●ねらい
 湿害対策技術の実証試験を行い、慣行栽培と比べての長所、短所を明らかにして、今後の本格導入を検討する。
 湿害対策技術導入の経営メリット、収益性改善効果を調査し、地域への導入計画を策定する。

対象場所

●三重県伊勢市
2016_sys_mie_map.jpg

(地図をクリックすると拡大します)


 伊勢志摩地域農業改良普及センターが管轄する伊勢志摩地域は、県の東南部に位置し、伊勢市、鳥羽市、志摩市、度会郡(玉城町、度会町、大紀町、南伊勢町)の3市、1郡の7市町からなる。人口は250千人、地域の面積は1,149k㎡で、県土の約20%を占める。気候は温暖で、年平均気温は15.5℃、年間降水量は2,000㎜前後である。
 農業については、総農家戸数6,218戸(県全体の12.7%)、耕地面積5,657ha(県全体の11.7%)、経営規模は1戸当たり0.91haとなっている。
 管内の農業地帯は三つに大別される。宮川下流域の平坦地帯は、伊勢市、玉城町を中心とし、稲作を主体に施設園芸、畜産等の多様な農業経営が行われ、経営規模も大きく管内では農業の中心となっている。宮川上流域の中山間地帯は、度会町を中心とした畑地帯における良質茶の生産、大紀町を中心とした松阪肉の生産地としての肉牛生産など特産農産物が生産されている。志摩半島及び熊野灘沿岸地帯は、鳥羽市、志摩市、南伊勢町からなり、みかん、いちご、きんこ(煮切干しサツマイモ)等温暖な気候条件を活かした特色ある農業生産が行われている。

実証した作業体系(作業名と使用機械)


2016_sys_mie_hyo1.jpg

耕種概要

2016_sys_mie_hyo2.jpg

2016_sys_mie_zu1.jpg

作業別の能率と効果

排水対策 

 ●明渠施工
 2016_sys_mie_1.jpg
溝掘り機
(クリックで動画再生)benri_movie1.jpg

作業日:4月20日
耕深 :30cm
幅  :25cm

●型式
 溝掘り機(OM312E)



 ●暗渠施工
 2016_sys_mie_2.jpg
カットドレーン
(クリックで動画再生) benri_movie1.jpg

作業日:4月20日
耕深 :65cm

●型式
カットドレーン(KCDS01)


 ●耕盤破砕
 2016_sys_mie_3.jpg
  パラソイラー
(クリックで動画再生) benri_movie1.jpg

作業日:4月20日
耕深 :40cm

●型式
パラソイラー(EPS400K)

定植 
 
 2016_sys_mie_9.jpg
定植後


作業日:7月25日
播種日:5月24日
基肥 :7月24日(定植前日)
120kg/10a(N成分19kg)
栽培様式:4条植え マルチ
     20,000株/10a

●型式
たまねぎ移植機

生育状況
 
 2016_sys_mie_4.jpg

 2016_sys_mie_5.jpg


定植後からしばらく晴天日が続き、干ばつとなったため、実証区Aでは初期成育が通常よりゆるやかに進み、その結果、慣行区Aの草丈が高くなった。
SPAD値は、実証区Aと慣行区Aの間に差異は認められなかった。

収穫 

 2016_sys_mie_7.jpg

 2016_sys_mie_6.jpg


作業日:9月13~19日

生育調査中は、断続的に降雨が続き、実証区Aにおける生育速度も通常程度に戻った。しかし、生育初期の伸長差が影響し、収穫適期が遅れる形となった。
また、台風の影響により、収穫適期よりもやや早めの作業となり、収量や秀品率は慣行区Aに及ばなかった。

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果

●施工効果(排水性について)
 排水対策の効果はいずれも高く、まとまった降雨後の排水性向上は、達観でも十分に認められた。とくに、額縁明渠による表面排水が、圃場全体の速やかな排水に大きく貢献していると思われた。圃場排水の様子は、実証機械によって異なり、定点カメラを用いて観察したところ、パラソイラー施工による耕盤破砕圃場は、土壌表面が均一に乾き始め、比較的速やかに下方向へ排水される様子が見て取れた。

2016_sys_mie_8.jpg
2時間ごとの圃場の様子

 土壌物理性の観点からは、それぞれの供試機械について、以下のような傾向がみられた。

【カットドレーン】
 排水対策効果は、施工から5カ月が経過した時点でも持続している様子が水分計のデータから読み取れた(データ省略)。しかし、地表から60cm前後に暗渠を施工するという作業機の特性上、その効果を採土管や貫入式硬度計を用いた手法で評価することは難しかった。

【パラソイラー】
 排水対策効果は、圃場条件により左右されることが明らかとなった。実証区Aは、施工時には耕盤破砕効果が見られたが、定植まで3カ月の期間が空いたこともあり、調査期間中に徐々に効果の低下がうかがえた(データ省略)。実証区Bでは、地表-10cm、-20cmのいずれの測定地点においても、体積含水率の推移から排水性の改善が見て取れ、パラソイラーの効果が最も理想的に表れた一例と言える。施工効果の持続性については、施工前~調査期間における、貫入式硬度計、三相分布、透水係数の変化から、パラソイラーの耕盤破砕効果は、時間の経過とともに低下傾向にあり、その一因として作業管理機械の使用頻度との関連性が考えられた(データ省略)。

2016_sys_mie_zu2.jpg
実証区Bの土壌水分率

 以上のことから、パラソイラーの排水性改善効果については、施工後おおむね3~4カ月は維持されると考えられた。したがって、現地での効果的な導入に繋げるためには、青ねぎの在圃期間を約2カ月間と考えた場合、施工から定植までの期間を1カ月以内とすることが適当であると考えられた。ただし、土壌物理性のデータが植物体地上部の生育状況と一致するか否かは本試験の結果から判断するには不十分であったため、今後の検討課題とする。
 また、施工から定植までの期間中には、雑草防除や圃場管理のため、トラクターや作業管理機を伴った作業が何度か実施されている。このことによる作業機械踏圧などが測定データに及ぼす影響も無視できないため、パラソイラー施工後の機械作業体系が排水性改善効果に与える影響についても考慮した上で導入を提案する必要がある。

●作業性
 圃場の表面排水効果が高い額縁明渠の設置により、作土の乾きが格段に速くなり、作業管理機械での圃場管理が、適期を外さずにできるようになった。
 導入に関してパラソイラーや溝掘機は、当産地で一般に普及している馬力(30馬力程度)のトラクターでも使用可能であり、導入に踏み切りやすいと考えられる。カットドレーンについては、作業時間の点では申し分ないが、大型のトラクター(70馬力クラス)が必要となるため、区画の大きい圃場である必要がある。また、施工の際に畦を貫通するため、借地圃場での導入は難しく、圃場条件を選ぶ技術である。
 農作業安全面については、額縁明渠付近においてトラクター旋回を行う際の脱輪が危惧されたため、初めて明渠を設置する場合には、作業感覚に慣れるまでは、注意が必要である。

●作業体系について
 基肥施肥作業の前に、比較的短い時間で取り組むことができ、排水性の改善および、生育、収量・品質の向上が期待できることから、普及性の高い技術であると考えられた。
 ただし、下層土60cm程度のところにがれきが多く含まれていると作業の妨げとなるため、機械導入・施工の際には、事前に作業深土中におけるがれきの有無を確認したほうが良いと思われる。
 明渠施工は、排水路の確保が重要となり、水田転作地では排水口の位置が明渠より高くなる場合があるほか、排水口の設置されていない畑地も散見される。そのため、排水口を掘り下げる、新たに設置するといった作業が必須になる。また、圃場の均平性が効果の発揮に大きく影響することがわかったため、レーザーレベラーの活用や、可能であれば代かきを実施するなどして圃場の均平化に努めるのが良いと考えられた。

●経営的効果
 実証区は慣行区に比べ圃場の土壌水分環境が改善されることにより、単位面積の収穫量は、実証区Aで15~25%と推察、実証区Bでは最大25%となった。
 また、地表面-20cmの体積含水率が同程度にまで減少する日数差は、実証区Aで2.5~5日程度の短縮、実証区Bは5日程度の短縮が期待できるため、作付け回数は実証区Aで年1.54作から年1.85作に、実証区Bは、年1.54作から年1.69作に作付け回数が増加すると示唆された。

2016_sys_mie_zu3.jpg
圃場Aにおける作付回数の向上モデル

2016_sys_mie_zu4.jpg
圃場Bにおける作付回数の向上モデル

 伊勢管内の青ねぎ経営は、パッケージセンター100%利用を前提とする経営試算であることから、出荷量の増加に比例して利用料が増えることが特徴である。よって、単位面積あたりの収穫量を増加させることが経営上重要となってくる。
 今回は、カットドレーン処理をする大型トラクター(70馬力クラス)が必要となるため、減価償却費の増加は避けらず、経営試算に影響を及ぼす。そこで、実証区Aでは、作付面積を増やし、カットドレーン牽引用のトラクターの共同利用や補助金制度の活用が必要と思われる。一方、実証区Bでは、慣行同程度面積では収益が減少するが、作付け回転が向上することおよび、面積あたりの収量増による経営改善効果が大いに期待できる。

●今後の課題
 パラソイラーおよび溝掘機については、速効性のある排水性改善技術として有効であるが、毎作連用する機械ではないため、産地規模での共同購入が望ましく、施工については、排水口と機械導入口の位置関係やコンクリート畦など圃場特性から、施工自体やその後の栽培管理作業が困難な場合もある。
 また、安全性の面から管理作業機械の脱輪を避けるため、圃場内のデッドスペースが多くなり、実質作付面積が施工前より減少するため、圃場面積の活用の点から考える必要がある。
 水田転作地の場合、排水口の位置が高く明渠につなげられない、もしくは畑地であっても排水口が元々圃場に設置されていないことが多く、排水口の掘り下げや新設はすべて手作業となるため、大変な労力を要する。

 水分計、土壌貫入硬度計および三相分布の結果(データ省略)から、パラソイラーの排水性改善効果が維持される期間を考察したが、それが植物体地上部の生育状況と一致するか否かは本試験の結果から判断するには不十分であったため、今後の検討課題とする。
 また、施工から定植までの期間中には雑草防除や圃場管理のため、数回トラクターを伴った作業を実施している。トラクターが実証圃場内を走行したことも物理性のデータに影響を与えている可能性があるため、パラソイラー施工後にトラクター走行頻度が排水性改善効果に与える影響についても考慮した上で作業体系を提案していく必要がある。

●今後の展開
・今回の実証調査をきっかけに、管内JAで溝掘機、耕盤破砕機の導入が予定されていることから、ネギの作付面積拡大に繋げていく。
・圃場の均平性が排水対策機械の作業性に大きく影響することから、レーザーレベラーを活用した圃場の均平化を合わせて推進する。
・排水口の位置を確認し、明渠からのスムーズな排水を行うよう徹底する。
・土壌診断に基づいた、適切な有機物投入を実施し、地力の回復及び周年栽培に耐えうる恒久的な土作りを実践する。

(平成28年度 三重県伊勢志摩地域農業改良普及センター、三重県中央農業改良普及センター)