提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


稲作

一発耕起播種機」による水稲乾田直播栽培を基軸とした高度輪作体系の確立(福岡県・平成28年度)

背景と取組みのねらい

●背景
 福岡県では約5万haの水田を活用し、主に輪作体系により水稲、麦類、大豆を生産している。近年、水稲生産では、気象変動による収量の不安定や、米価の低迷、直接支払交付金の見直しなどから、さらなる効率化が求められている。また、規模拡大に伴い、麦類収穫から田植えまでの期間の労力荷重の改善が課題である。
 そこで、約1万haの水田面積をかかえる県内有数の米産地である南筑後地域(柳川市、大川市、みやま市、大木町)において、麦類や大豆にも使え汎用性が高い「一発耕起播種機」を活用して水稲乾田直播栽培技術を実証した。
 当地域では、水田農業の経営改善を目的に、平成27年度に「省力・低コスト栽培研究会」が設置され、水稲乾田直播の技術体系を模索していた。

●ねらい
 福岡県南筑後普及指導センターは、管内全域の意欲ある水田農業担い手を集めた「省力・低コスト栽培研究会」の活動の一環で、これまで水稲乾田直播技術として「部分浅耕一工程播種法」及び「表層散播法」の試験に取組んできた。これら乾田直播栽培技術は、慣行の移植栽培と比較し、生産コスト低減効果や省力化が確認されたが更なる作業効率改善の必要性も検討していた。
 本実証では、水稲・麦類・大豆の輪作体系を想定して、麦類及び大豆の省力化を目的として開発された作業速度が速いとされる一発耕起播種機(トリプルエコロジー)を用いた水稲乾田直播栽培技術について、技術確立をめざした。

対象場所

●福岡県大牟田市大字宮崎
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(地図をクリックすると拡大します)


 南筑後地域は、福岡県の南西部に位置し、熊本県と県境をなす東南部の山麓地帯と筑後川・矢部川下流に広がる平坦地帯、有明海沿岸の干拓地帯に大別され、県内でも有数の水田地帯である。
 大牟田市大字宮崎は、大牟田市の北東に位置し、平坦部から中山間地にまたがっている。平成9年の土地改良事業により、基盤整備が行われ、水稲・麦類・大豆栽培に適した地域である。
 実証を行った農事組合法人「宮崎」は、これまでにも大豆の省力耕起播種法(一工程)や麦類の省力施肥法(緩効性肥料)の導入など、生産コスト低減に向けて積極的に取り組む集落営農組織である。

実証した作業体系(作業名と使用機械)


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耕種概要

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作業別の能率と効果

播種+施肥+耕起能率と効果

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予措した種籾

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一発耕起播種機トリプルエコロジー
(クリックで動画再生)benri_movie1.jpg

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砕土率調査(土塊径)


播種作業前の雑草防除として、ラウンドアップマックスロードを散布した。(6月1日)

播種日:6月7日(乾田直播)
播種深度:2~3cm
播種量:3.7kg/10a(乾籾換算)
肥料:LPコートL60 (42-0-0)
LPコートS120 (41-0-0)
L60:S120=40%:60%に配合

●一工程で砕土性が優れるという特徴から土塊径を確認。
土塊径は、2cm以下が70%以上の状態が望ましいとされているが、播種2~3日前にかけての20mm弱の降雨で土壌が湿潤となり、砕土しきれず60%程度となった。

●型式
トリプルエコロジー(KTBM2200E-C)
トラクタ(70PS)
漏水対策(振動鎮圧)能率と効果

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振動鎮圧ローラ
(クリックで動画再生)benri_movie1.jpg


作業日:6月7日(播種直後)

●圃場内の一部において漏水地点が確認されたものの、圃場全体としての漏水対策の効果はあった。
●適期作業期間が他の作業と競合するため、作業幅の増幅や、作業速度の向上等が望まれる。
(実績:作業幅145cm、
作業速度2.8km/hr)

●型式
振動鎮圧ローラ(SU2-T)
トラクタ(41PS)

生育状況能率と効果

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出芽揃い(6月15日)

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播種後27日(7月5日)

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実証区(左)と慣行区(右)
(9月8日)


出芽始め:6月12日(播種5日後)
出芽揃い:6月15日(播種8日後)
苗立ち数:99本/㎡

●苗立ち率が、72.3%と良好であったため、苗立ち数は目標の90本/㎡を上回った。
●茎数、穂数は、実証区が慣行区より多く、草丈、稈長、穂長は、実証区が慣行区よりいずれも長く推移した。葉色も、実証区の方がやや濃く推移した。
●出穂期は、実証区の方が1日早く、成熟期についても実証区の方が3日程度早かった。
●直播栽培の場合、移植栽培と比べ下位分げつが旺盛であることに加え、出芽苗立ち数が目標を上回り、さらに側条施肥により肥効が高かったことで、生育が旺盛になった。
●鳥害は見られなかった。
●紋枯病による黄化は、実証区の方がやや多かった。

収穫能率と効果

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成熟期(10月1日)

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収穫作業(10月7日)


実収:567kg/10a
玄米タンパク質:6.7%

●実証区の1穂籾数は、慣行区に比べて微少だったが、穂数が27%多く、㎡当たり籾数は、33%多かった。精玄米重は、坪刈収量、実収量ともに慣行区より多かった。
●登熟歩合は、実証区の方が高く、屑米重歩合は同等であった。
●千粒重は、実証区の方が0.4g重かった。
●品質は、慣行区は1等中であったが、実証区は未熟粒の混入により2等中となった。
●生育は旺盛で、㎡当たりの籾数が確保されるとともに幼穂形成期においても肥効が安定し、登熟歩合も高く、精玄米重は多くなった。
●一方で、減数分裂期以降の肥効が低下し、成熟期が早まるとともにタンパク質含有率が低い傾向となった。

●型式
KSAS対応コンバイン(70PS)

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果と考察

1.種子予措
 実証圃の種子予措は、24時間種子消毒後、25℃で48時間浸種したところ、出芽したものもあったため、24時間程度の浸種で良いと考えられた。
 播種量は4kg/10aで設定したが、種子及び圃場状態により3.7kgとなった。
 苗立ち率は、72.3%と良好であったため、苗立ち数は99本/㎡となり、目標の90本/㎡を上回った。鳥害は発生しなかった。

2.供試機械について
 トリプルエコロジーは、一工程で砕土性が優れるという特徴があることから、土塊径により評価を行った。土塊径は、2cm以下が70%以上の状態が望ましいとされているが、播種2~3日前にかけて20mmの降雨で、土壌が湿潤となり砕土しきれず60%程度となった。
 また、70PS以上の大型トラクタが必要であるが、当地域で最も普及している中型(30~50PS)に装着できるよう、改善が必要と考える。今回の実証は条播であったが、紋枯病など病害虫対策の観点から点播できるよう改善が必要である。
 振動鎮圧ローラの漏水対策は、圃場の一部において漏水が確認されたものの、圃場全体としての漏水対策の効果は得られた。
 ただし、適期作業期間が他の作業と競合するため、作業幅の増幅や、作業速度の向上等、改善が望まれる。
※作業幅が145cmと狭く、直播面積の拡大に伴い作業可能面積の制限要因となることが懸念される

3.雑草および病害虫
 除草剤は、いずれの薬剤の効果も良好であり、薬害も見られなかった。実証圃は、麦の作付がなくオオアレチノギクが少発生したものの、播種前の雑草防除対策により、本雑草の生育抑制はでき、播種精度に影響はなかった。実証した防除体系で問題はないが、除草剤及び労働コストを考慮すると以下の改善の余地がある。

①播種直後の乗用管理機による土壌処理剤(雑草防除)を省略し、早めの茎葉処理剤(雑草防除)及び入水により抑草できる可能性がある。
②播種直後の乗用管理機による土壌処理剤の薬剤効果が向上し残効性が長くなれば、茎葉処理剤を省略し、早めの入水により抑草できる可能性がある。
③麦収穫直後の播種であれば、雑草の発生は少ない場合があるため、播種前の非選択性除草剤の処理を省略できる可能性がある。

 トビイロウンカは適期防除することで、収量・品質に影響はしなかった。このことから、今回実証した体系で問題ないと考えられる。
 実証区は、苗立ち数が多く、また、条播であったため風通しが悪くなり、紋枯病が慣行区よりやや多く発生した。このことから点播により株を形成すべきと考えられた。

4.生育状況
 草丈、茎数は、慣行区より高く推移し、稈長は9%、穂数も27%多かった。また、穂長は実証区の方が8%長かった。葉色は、実証区の方がやや濃く推移した。
 出穂期は、実証区の方が1日早く、成熟期についても実証区の方が3日程度早かった。
 これより、直播栽培の場合、移植栽培と比較し下位分げつが旺盛であることに加え、出芽苗立ち数が目標を上回り、さらに側条施肥により肥効が高かったことにより、実証区の生育が慣行区に比べて旺盛になったと考えられる。

生育初中期調査結果
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※葉色はSPAD502で測定

生育後期調査結果
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5.収量および品質
 実証区は慣行区に比べて1穂籾数は3%少ないが、穂数が27%多く、㎡当たり籾数は33%多かった。また、精玄米重は、坪刈収量では27%、実収では32%多かった。
 登熟歩合は、実証区の方が高く、屑米重歩合は同等であった。千粒重は、実証区の方が0.4g重かった。
 収量コンバインによる全刈収量調査結果は、坪刈収量との差異は少なく、良好であった。

収量調査結果
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※印は、KSAS収量コンバインによる値

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 品質は、慣行区は1等中であったが、実証区は未熟粒の混入により2等中となった。
 タンパク質含有率は、実証区の方が0.5%低かった。

品質調査結果
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※ KSAS収量コンバインによる測定値

 以上のことから、生育は旺盛になり、㎡当たりの籾数が確保されるとともに幼穂形成期においても肥効が安定し、登熟歩合も高く、精玄米重は多くなった。一方で、減数分裂期以降の肥効が低下し、成熟期が早まるとともにタンパク質含有率が低い傾向となったと考えられる。

6.費用について
 実証区は慣行区に比べて除草コストが多く、薬剤費は188%の増加となり、振動鎮圧機等、新たな機械が必要になることから減価償却費も134%の増加となった。麦類及び大豆作においても使用し、汎用化を図ることで減価償却費の低減を図ることが前提となる。
 種苗費は、育苗委託が不要となり、84%削減できたが、労働時間及び労賃は慣行区より11%増加した。

 以上のことから、実証区における10a当たり費用合計は慣行区と比較し10%増加した。一方で、10a当たり事業利益は、収量増加により12,724円増加した。

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●今後の課題
・振動鎮圧作業は、ある程度土壌が湿潤状態であることが望ましく、播種後土壌が乾燥した場合、十分な漏水対策効果が得られない可能性がある。そのため、比較的土壌水分条件が高い播種直後に作業する必要がある。また、土質、地下水位、鎮圧時の土壌水分条件等に基づく、生産者段階で分かる簡易なマニュアルを策定する必要がある。
・乾田直播栽培を連年取り組むと、漏生イネが懸念される。大豆作や水稲移植栽培によるブロックローテーションを行う必要がある。
・乾田直播栽培における施肥体系、播種晩限等の品種間差を明確にする必要がある。
・麦類の早晩生等の前作の栽培条件を踏まえた栽培体系を構築する必要がある。
・本実証では6月7日に播種したが、小麦「ミナミノカオリ」の収穫期と重なることが懸念される。

(平成28年度 福岡県農林水産部経営技術支援課、筑後農林事務所南筑後普及指導センター)