提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


その他

半装軌式トラクタの畑作業への適応性試験(鹿児島県・平成21年度)

背景と取組みのねらい

 半装軌式トラクタの実用化・普及により、その機能を活かした新しいスタイルの機械化が注目されている。
 半装軌式トラクタは、接地圧が小さくけん引力に優れ、ほ場沈下や踏圧が少ない等の利点があり、水田や軟弱地盤への適応性が優れるとされている。しかしながら、それら機能の各種農作業への適応性については未解明な点も多く、特に畑地帯での有効性について、検証と技術確立が待たれるところである。
 そこで、畑作の主要作業において、同一の作業機を用い、同出力の半装軌式トラクタと車輪式トラクタの所要動力特性を比較検討し、半装軌式トラクタの特徴、畑作への適応性を明らかにする。

試験を行った畑作業と使用機械

深耕ロータリ耕 

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●深耕ロータリ耕所要動力は、半装軌式トラクタ、車輪式トラクタともに作業速度に比例して増加した。
●各速度域での所要動力は、半装軌式トラクタが車輪式トラクタに比べて少ない傾向があった。

●型式
深耕ロータリ PS-1500
半装軌式トラクタ KL285-PC
車輪式トラクタ KL285

2連畦立てマルチャ 

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●畦立所要動力は、半装軌式トラクタ、車輪式トラクタともに作業速度に比例して増加し、半装軌式トラクタの所要動力が車輪式トラクタと比較し、少ない傾向があった。
●作業限界速度は両トラクタともに3.3~3.5km/hと推察された。

●型式
2連畦立てマルチャ PH-MD210B
半装軌式トラクタ KL345-PC
車輪式トラクタ KL345
排土型心土破砕耕 

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●ソイルリフタの作業動画
▼半装軌式トラクタ
●湿潤状態での比較動画
▼車輪式
▼半装軌式
▼プラソイラ比較動画

●排土型心土耕所要動力は、半装軌式トラクタ、車輪式トラクタともに作業速度増に比例して増加した。各速度域での所要動力に明らかな差異はなかった。
●スリップ率は、半装軌式トラクタが2.2~2.7%、車輪式トラクタ12~17.8%であった。
●作業限界速度は半装軌式トラクタが4.5km/h、車輪式トラクタが3.5km/hで、半装軌式トラクタが牽引主体の作業については高速作業化に優位であった。


●型式
ソイルリフタ SPS31A
半装軌式トラクタ KL285-PC
車輪式トラクタ KL285

ソイルリフタ SPS31A
半装軌式トラクタ KL3450-PC
車輪式トラクタ KL3450
安定性比較 

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・既耕地と未耕地の進行方向加速度は加速度は、既耕地、未耕地とも車輪式トラクタが大きかった。
・半装軌式トラクタは、ほ場枕地付近の硬い土壌に対して安定性、安全性が高いと考えられた。

●型式
標準ロータリ RL1850K
半装軌式トラクタ KL34R-PC
車輪式トラクタ KL34R

(写真・図をクリックすると拡大します)

所要動力等測定法

 けん引抵抗は、トラクタ直装のけん引抵抗計(農研機構の測定法を参考に製作)、PTO軸動力は、軸トルク計を用いて計測し、ひずみ計データロガを介してPCに収録した。
 耐ダッシング性は加速度計を用いて計測した。
 その他、作業速度、スリップ率、耕深の測定を行った。

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加速度計

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測定状況

成果と考察

●深耕ロータリ耕
 深耕ロータリ耕は、所要動力が大きい上に作業速度が遅く高能率化が容易でない。南九州の黒ボク地帯で増加傾向にある短根ゴボウにおいても、40cm程度の全面深耕により収量性が向上する事が明らかになっており、露地野菜等での深耕ロータリ耕の必要性は高い。
 出力20.6kWの半装軌式トラクタと車輪式トラクタを用いて、深耕ロータリ耕所要動力や作業能率について比較検証した。なお作業時のPTO軸回転数は530rpm程度と750rpm程度とし、設定耕深は40cmとした。
深耕ロータリ耕所要動力は、半装軌式トラクタ、車輪式トラクタともに作業速度に比例して増加した。各速度域での所要動力は、半装軌式トラクタが車輪式トラクタに比べて少ない傾向があった。

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●畦立て耕
 南九州において、サツマイモの畦立作業に使用される機械・機材は、従来小型ホイルトラクタと一畦用の小型畦立マルチャが主流であったが、近年は二畦用の畦立マルチャの普及が進みつつある。そこで、二畦用畦立マルチャを利用した畦立作業法について、出力25kWの半装軌式トラクタと車輪式トラクタを用いて、各々の畦立所要動力について検証した。

畦立所要動力は、半装軌式トラクタ、車輪式トラクタともに作業速度に比例して増加し、半装軌式トラクタの所要動力が車輪式トラクタと比較し、少ない傾向があった。
 作業速度と作業の可否判定については、トラクタ性能よりも作業機の性能に左右されることが多い事から、作業速度と畦の成型状況で判断した。その結果、作業限界速度は両トラクタともに3.3~3.5km/hと推察された。

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●排土型心土破砕耕
 土層改良作業機械として排土型心土破砕機(ソイルリフタ、プラソイラ)が多数普及してきている。特に、水田輪作(転作)時の排水性向上対策や奄美群島の重粘土壌地帯(琉球石灰岩風化土壌)でのサトウキビ土層改良などに多く利用されており、今後も広く活用が見込まれる。
 出力20.6kWの半装軌式トラクタと車輪式トラクタを用いて、その所要動力や作業能率について比較検証した。

   排土型心土耕所要動力は、半装軌式トラクタ、車輪式トラクタともに作業速度増に比例して増加した。各速度域での所要動力に明らかな差異はなかった。
 作業速度と作業の可否判定については、各速度域でのスリップ率とエンジン回転変動で判定を行った。スリップ率は、半装軌式トラクタが2.2~2.7%、車輪式トラクタ12~17.8%であった。作業限界速度は半装軌式トラクタ4.5km/h、車輪式トラクタ3.5km/hとなり、半装軌式トラクタが牽引主体の作業については高速作業化に優位であった。

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 半装軌式トラクタと車輪式トラクタの作業能率、燃料消費量を検討した。半装軌式トラクタ、車輪式トラクタとも速度段H-7、耕深45cmとした。
 有効作業速度は、半装軌式トラクタ4.3km/hに対し、車輪式トラクタ2.5km/h、作業時間は、半装軌式トラクタ22.1min/10aに対し車輪式トラクタ31.3min/10aで、車輪式トラクタが3割程度高能率であった。
 時間あたりの燃料消費量は半装軌式トラクタが多かったが、10a当たりの燃料消費量は、半装軌式トラクタ2.0L/10aに対し車輪式トラクタ2.4L/10aで能率向上が燃料節減に効果を及ぼした。

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●安定性比較
 ほ場枕地付近での急激な土壌硬度の変化により、トラクタが前方に押し出される現象(ダッシング)は農作業事故の要因の一つとされている。土壌硬度と進行方向加速度の変化について、既耕地から未耕地への連続耕うんを行い検証した。

 既耕地と未耕地の進行方向加速度は加速度は、既耕地、未耕地とも車輪式トラクタが大きかった。半装軌式トラクタは、ほ場枕地付近の硬い土壌に対して安定性、安全性が高いと考えられた。

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●半装軌式トラクタの畑作業への適応性
 出力が同等の半装軌式トラクタと車輪式トラクタを用い、深耕ロータリ耕、サツマイモ畦立耕、排土型心土破砕作業(ソイルリフタ耕)の所要動力と作業能率について比較検証した。その結果、作業速度と所要動力の関係については、いずれの作業においても作業可能な速度範囲内では正比例的な増加傾向を示した。
 走行形式の差異と所要動力については、PTO軸からの回転動力を主体として行う深耕ロータリ耕、畦立耕については、半装軌式トラクタが所要動力が少なかった。牽引力主体の排土型心土破砕作業については、車輪式トラクタの所要動力がやや少ない傾向を示したものの、作業の限界速度は半装軌式トラクタが車輪式トラクタを上回り、30%程度の作業能率向上が見込まれた。また、面積当たりの燃料消費量も20%程度削減可能であった。
 さらに、半装軌式トラクタ、ほ場枕地付近の硬い土壌に対して安定性、安全性が高く、ダッシングが小さく安全性が高いと考えられた。
 以上の結果、半装軌式トラクタは畑作業においても優れた性能を発揮し、畑作業への適応性が高いと考えられた。

(平成21年度 鹿児島県農業開発総合センター大隅支場農機研究室 「セミクローラ形トラクタの畑作への適応性試験 -各種畑作業における所要動力と作業能率-」より)