提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


野菜

セミクローラタイプトラクタによるナガイモ圃場の土壌物理性改善効果(青森県・平成19~20年度)

背景と取組みのねらい

●背景
  露地野菜を中心とした水稲との複合経営が営まれている地域にあって、大型農業機械等での作業により耕盤層が形成され、作物の生育障害などが顕在化する等、生産の基盤となる土壌環境の悪化が問題視されている。このような中、篤農家の一部にはセミクローラ型トラクタ(以下、セミクローラ)を先行導入する等、土づくりを意識した動きも見られている。 このため、その実用性と普及性を検討する必要がある。

●目標
 以下を実証することにより、生産と品質、かつ経済性に優れた持続的農業技術の確立、農家経営の安定を目標とする。
1.セミクローラによる効果の検討
(1)セミクローラと通常のホイルトラクタ(以下、ホイル)の作業性の相違点や新たな体系における経営収支や適正規模の把握
(2)セミクローラがホイルと比べて作業性、土壌硬度等に及ぼす影響
(3)セミクローラの普及性やその課題

対象場所

●青森県上北郡六戸町
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(地図をクリックすると拡大します)


 六戸町は、西方に八甲田連峰を仰ぎ、十和田湖から出づる清流が奥入瀬川をくだって太平洋にそそぐ中流平野部に位置し、肥沃で広大な田畑、木々の緑に囲まれている。夏期は「ヤマセ」といわれる冷たい偏東風が太平洋から吹きつけ、低温と曇雨天の日が多い。冬期は西~北西の季節風が強く、冷え込みは厳しいが晴天の日が多い。
 水稲は「ヤマセ」の影響により収量・品質が不安定のため、米の生産調整を契機に露地野菜の作付けが増え、水稲+ながいも・ごぼう・にんじん・にんにく等を中心とする露地野菜の複合経営となっている。
 気象は、太平洋型気候に属し、平地の年平均気温は10℃前後、年間降水量は900mm前後である。

ながいも耕種概要

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実証した作業体系(作業名と使用機械)

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※ながいも栽培における一連の機械作業において、セミクローラとホイルを比較

作業別の能率と効果(平成19年度)

施肥・耕起能率と効果
 
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ブロードキャスタによる施肥とロータリー耕

・施肥については、
慣行区(ホイル)1.92時間/10aに対し、実証区(セミクローラ)は1.66時間/10aとなった。
・耕起作業については、
慣行区(ホイル)1.07時間/10aに対し、実証区(セミクローラ)は1.14時間/10aであった。(のべ時間)

●型式
セミクローラ (クボタ KL505)
ブロードキャスタ (ササキ CM300)
ロータリー (ササキTM220)
植溝掘り能率と効果
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▼トレンチャー作業の比較動画
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トレンチャーによる植溝掘り(植付前)

・2連トレンチャーで2本の植溝を掘る(深さ1.2m)。
・慣行区(ホイル)の3.46時間/10aに比べ、実証区(セミクローラ)は2.55時間/10aとなった。(のべ時間)

●型式
セミクローラ (クボタ MZ75)
(2年目 クボタ SMZ76)
2連トレンチャー (ササキ HT7120)

病害虫防除能率と効果
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▼セミクローラとホイルの比較動画
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ブームスプレイヤによる農薬散布

・防除は慣行(ホイル)、実証(セミクローラ)とも3.0時間/10aで同等。
・作業時間は同等だったものの、セミクローラは安定性が高く、地面への沈み込みが少ないため、ホイルと比較してアーム部分のブレが少なかった(動画参照)。

●型式
セミクローラ (クボタ MZ75)
(2年目 クボタ SMZ76)
ブームスプレイヤ
(丸山 BSM630SLT+ドリフト低減ノズル)

収穫能率と効果

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●収穫
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▼セミクローラ動画 benri_movie1.jpg

●穴埋め
▼ホイル動画 benri_movie1.jpg
▼セミクローラ動画 benri_movie1.jpg

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掘取作業

・ほ場条件が良い(土壌水分が少ない)ときは、実証(セミクローラ)も慣行(ホイル)も同等の作業性であった。
・降雨や降雪後のほ場条件が悪いときでも、セミクローラは、掘取作業が可能であったが、ホイルはスリップし、トラクタ2台でけん引しても作業を続けることができなかった。

●型式
セミクローラ (クボタ MZ75)
(2年目 クボタ SMZ76)
センター掘機 (ササキ)

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果

1.土壌硬度調査(平成19、20年度)
(1)ながいも栽培における一連の作業の中で、土壌硬度調査を行った。
※調査は貫入式土壌硬度計(Daiki)を用いて、作業前後の土壌の深さ別の硬度を測定した。

 施肥前に深耕を行ったが、深耕前の調査では、深度25~40cmに耕盤層があったと考えられた(図-1)
 施肥後(図-2)、耕起後(図-3)、トレンチャー耕前(図-4)の調査では、慣行(ホイル)の方がやや硬くなっているものの、明確な差は認められなかった。

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※すべて平成19年度の調査データ

(2)農薬散布後に毎回、散布通路を測定したが、走行回数が多くても必ずしも硬化せず、逆に硬度が下がる場合も見られた(図-5)。これは、測定時の土壌水分の違いが影響したと考えられる。また、散布するときのタイヤ走行位置が毎回ずれていったため、定点を調査することができなかったことも要因のひとつであると考えられる(データ略)。

(3)収穫後の調査では、1年目(平成19年度)では深度15~50cmの間で慣行(ホイル)の方が最大約5kgf/cm2高く硬くなっていた(図-6)。2年目では、深度5~15cmの間で実証(セミクローラ)が高かったが、深度25cmでは慣行(ホイル)高かった。収穫後の土壌硬度は、1年目と2年目とで異なる傾向で、判然としなかった。

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※図-5、図-6(平成19年度)、図-7(平成20年度)

(4)以上の結果から、ブロードキャスタでの施肥、ロータリー耕等、一時的な作業後の土壌硬度の差は明確ではなかった。ながいも栽培においては、2年間耕作しても土壌の耕盤の形成は見られなかった。これは、ながいも栽培では土壌の深い層まで耕起し(トレンチャー耕やセンター掘り)、しかも栽培ごとに同じ場所にうねが作られるとは限らないからと考えられた。

2.土壌三相分布の変化
 1年目(平成19年度)の耕作前と2年目(平成20年度)の耕作後の土壌三相分布では、いずれの区も気相が減少して固相が増加し、2年間作付けすることによって土壌がしまったものと考えられる。しかし、実証(セミクローラ)・慣行(ホイル)に大きな差は見られなかった。

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※調査日
1年目(耕作前:平成19年4月11日、耕作後:平成19年11月30日)
2年目(耕作前:平成20年5月19日、耕作後:平成20年11月25日)


3.根系分布
根張り調査の結果から実証区の根量が多かったが、土壌硬度は実証区の方が高い値を示した。これは、実証区の土壌硬度が根張りを妨げる程ではないと考えられたことや土壌水分、土壌養分が影響したものと考えられた。

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※平成20年10月30日実施

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4.収穫物調査
 規格別収量は、A-B品は実証(セミクローラ)、慣行(ホイル)同等であった。実証(セミクローラ)はスリップしにくいため、収穫物の折れや傷(キレD)がなかった。

表 品質別収量及び規格別収量(kg/10a)
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5.実証した機械化作業体系と作業性
(1)セミクローラと各種作業機械
①ブロードキャスタ、ロータリー耕、トレンチャー耕
春のほ場条件の良いときに行うため、セミクローラ及びホイル型トラクタともに作業性、作業時間に大きな差は見られなかった。とくにロータリー耕は、土壌水分によって作業の実施を判断するため、セミクローラとホイル型トラクタの作業に違いが見られなかった。
②病害虫防除(ブームスプレイヤ)
セミクローラ及びホイルによる作業時間の差は見られなかったが、セミクローラは作業時の走行安定性が高いためブームスプレイヤのアーム部分の振れが少なく、オペレーターの精神的な負担が軽減された。
③収穫・穴埋め
土壌水分が少ないほ場条件の良いときは、セミクローラ及びホイルによる作業時間、作業性に差は見られなかった。
しかし、降雨や降雪により土壌水分が高いときは、ホイルはタイヤの横滑りによる収穫物の損傷が増加し、さらには走行不能となった。一方、セミクローラは、ホイルが作業不能となる条件でもほ場条件が良いときと同等の作業速度、作業性であり、収穫物の損傷が少なかった。
穴埋め作業も同様で、ほ場条件の良いときは差がなく、悪条件ではホイルが走行不能となってもセミクローラは作業が可能であった。

6.担当農家の声
●セミクローラのほ場の中での作業性は最高で、湿田や畑作で力を発揮できるが、とくに強い牽引力を必要とするながいも、ごぼうに関しては、悪条件での収穫作業に向いていると考えられる。
●今までは男性が機械操作中心で、女性が重労働の力仕事(掘り取り)中心であったが、セミクローラは横滑りが少なく安定性が高いことから、女性が機械操作、男性が力仕事を行うことができる。
●価格が若干高いものの、小さい馬力でも大きな仕事をこなせることから、メンテナンスや燃料費も軽減できるのではないか。
●収穫時期の天候が不安定となりやすいながいも栽培においては、これからの時代、こういうタイプのトラクタが主流になると考える。

平成19~20年度「セミクローラタイプトラクタによるナガイモ圃場の土壌物理性改善効果及びドリフト低減ノズルの効果実証」から抜粋

(平成19~20年度 青森県農林水産政策課農業改良普及グループ、青森県上北地域県民局地域農林水産部普及指導室)